テキサスビールはビーフにピッタリ?
テキサス州サンアントニオのビール
なぜこの時期にサンアントニオ?
昨秋、イーベイのオンライン・オークションで2泊3日のリゾート宿泊券を獲得した。クリスマス休暇でニューオリンズに行く時に使おうと思ったのだがタイミング的に間に合わず、4月に義父がワシントンを訪問された際に再びニューオリンズを試みてこれもホテルが満室で取れなかった。そうこうするうちに10月帰国が視野に入ってきて、使い切れないのはもったいないと思い、ニューオリンズにこだわることなく3つほど候補地を挙げてもう一度申請してみた。すると、第3希望に記入していたサンアントニオで取れてしまった。
なぜサンアントニオを希望地の1つとして書いておいたか―――実は、サンアントニオから車で1時間少々で行けるテキサス州の州都オースティンに、ボクがワシントンに赴任する際にJICAのワシントン事務所でいろいろお世話になった上野さんご夫妻が住んでおられるからだ。JICAのワシントン事務所からチリ・サンチャゴのJICA事務所に異動された上野さんは、今年6月いっぱいでJICAを退職し、9月からオースティンで東洋医学の勉強を始められたのだ。離任する前に一度会えないかなという期待が若干あった。
ボクは1985年のルイジアナ留学時、冬休みを利用してロサンゼルスまでバス旅行した際、サンアントニオに立ち寄ってアラモ砦とか郊外のミッション(キリスト教入植者の布教拠点)とかを観光したことがある。土地勘がある町なのだ。上野さんご夫妻のいるオースティンを新たに訪ねるにしても、残った時間で17年前の自分の足跡を辿るだけでは面白くない。旅に付加価値を求めるとしたら、ボクの場合はやっぱりビールだろう。旅に出れば、最低昼食と夕食は外食になる。サンアントニオならではのビールを飲んでみようと考えた。
かのビール評論家ボブ・クライン氏の「The Beer Lover’s Rating Guide」によると、テキサス・ビールの8割近くはサンアントニオ周辺のブランドで占められている。サンアントニオには、Ballantine、Blue Star、Falstaff、Jax、Lone
Star、Mexicali、Olympia、Pabst、Pearl、Pilsner Club、Red Bone、St.
Ides、Texas等の地ビールがあり、オースティンのBitter End、Celis、サンアントニオの東80マイルの小さな町にあるShiner等がある。全部トライするのは難しいにせよ、何件かはマイクロ・ブルワリーを訪ねてみよう。ブランド名以外に地名に関する情報がない中、とにかくサンアントニオに乗り込んだ。
やっぱり最初は「ローン・スター」?
サンアントニオ到着初日、ホテルにチェックインするには少し時間もあったので、パセオ・デル・リオに面したハイアット・ホテルのバー「Mad Dog」で、メキシカン料理を食べながら「ローン・スター(Lone Star)」を1本飲んでみた。そういえば、17年前にもマリアッチの演奏を聴きながら「ローン・スター」を飲んでビーフ・ファヒータをつまんでたよな。今はその時の広場の場所も特定できないが、久々のテキサス州訪問の記念すべきご当地ビール第1号は「ローン・スター」以外にあり得ない。ボブ・クライン氏は「ローン・スター」をサンアントニオ産としているが、ボトルのラベルはフォートワース産になっている。元々、「ローン・スター」は1884年にサンアントニオで操業開始したローン・スター醸造会社が始まりで、テキサスで最初の機械化された生産ラインを持つ醸造所だったが、現在はビールの生産自体はフォートワースに移転され、元のお城のような醸造会社の建物は現在「サンアントニオ芸術博物館(San Antonio Museum of Art)」になっているのだそうだ。
“This reliable, light-bodied thirst
quencher is the self-proclaimed “National Beer of Texas.” It offers a refreshing splash of
bitterness at the back of the throat with a contrasting mild, malty taste that
is sugary sweet and appealing.
Slightly fizzy at its core, the light-gold body gains sharpness and
flavor after several sips. Lone
Star is a steady, warm-weather companion.” (365 Bottles of Beer for the Year
2003)
住所: 200 W.
電話: 210-978-8100
イエローページに載っていた「ブルー・スター」
マイクロが実際にどこにあるのか全く事前に調べずにサンアントニオを訪問してしまったため、ホテルに着いて先ずやったのは、客室に完備されているイエローページで、マイクロ・ブルワリーの検索をしてみることだ。調べてみると先に挙げたローカル・ブランドのうち、辛うじて載っていたのは「ブルー・スター(Blue Star)」だけであった。イエローページは住所も掲載されていて、「ブルー・スター醸造会社」の住所はアラモ砦の前を通っている「Alamo St.」になっていたため、そんなに離れていないだろうと思い、ホテルから歩いて行ってみることにした。
ところが実際には0番地から1400番地まで行くには14ブロックを歩かねばならない。約30分歩いてようやく辿り着いた場所は、倉庫を改造した若手アーチストのアトリエが集まっている芸術街で、その中に同じく倉庫を改装してマイクロが操業していた。創業は1996年と新しい。
住所: 1414 S.
電話: 210-212-5506
URL: http://www.bluestarbrewing.com
ラインナップ: Golden Ale、Pilsener、King
William Ale (Brandywine)、Pale Ale、Stout、Smoked Dark Ale、Autumn Fest
カウンターに座り、取りあえず「オータム・フェスト」を注文してみる。かなり濃い茶色のビールだが、喉にひっかかる感覚は全くなく、出来たての新鮮な味を楽しみながらゆっくりと飲んだ。同じカウンターには、カウボーイがよくかぶっているテンガロン・ハットをかぶった2人組が既に先に来ていて、何杯か飲んでいた。まだ夕食までは少し時間がある。取りあえず1杯だけ飲んで、お店を後にした。ここにはレストランで子供用のブースター・チェアも置いてあったので、家族連れで来ることも可能だ。ボクは結局行きの全行程を歩いてしまったけど、このマイクロはアラモ・ストリートから南に向かって延びているバス路線「ブルー・ルート」のバス停のすぐそばにあり、1回50セントで乗車可能だ。ボクも帰りはこのバスに乗ってアラモ砦の近くまで帰って来た。
“Fruity-sweet at the outset, with a
pervasive thread of moderated hoppiness; newly arrived fruit-nuanced bitterness
does not cling to the tongue as long as a pale ale lover might wish; taste
sensations stay too muddied and not delineated enough; hop presence fades in
the stretch, though it does linger awhile in the aftertaste; good, but not
great. Make this more
drinker-friendly with a crisp, fresh salad filled with lots of crunchy
lettuce.” (Bob Klein, “The Beer Lover’s Rating Guide”)
“Mild, chocolate-malt, taste offers up a
gentle tickle of hop-spiciness; robust and fresh; consistent, characterful
underpinning of a roasty, toasty presence; this voluptuous stout just bursts
with flavor; gets creamier as the evening wears on; the touch of spice is an
unexpected, generous extra; carefully brewed quality is apparent here. Goes exceptionally well with any
hardshell seafood.” (Bob Klein, “The Beer Lover’s Rating Guide”)
かのビール評論家ボブ・クライン氏は、ペール・エールとスタウトについて、その著書の中で紹介している。前者は2.8点、後者は3.5点で、同氏の評価の傾向から見て、ペール・エールにはかなり不満を持っていて、スタウトは比較的良い点を付けているように思う。それぞれどんな料理に合うかが書かれているが、氏はどこでこれらのビールを飲んだのかふと疑問に思った。ここのマイクロを実際に訪れて、新鮮なサラダとか貝や蟹を使ったシーフード料理に合うなどと言っているのだろうか。メニューにそんなのが載っていたのかどうかわからない。でも、タップから直接グラスに注がれた新鮮なビールに対して、評論家がグチャグチャ言ったとしても、結局は新鮮なビールはやっぱり美味しいとボクは思っている。
この街でもやっぱり見かけた「ファット・タイヤ」
「ブルー・スター」のマイクロでしっかり1杯飲んだ後、アラモ砦近くの「リバーセンター・モール」にあるIMAXシアターで「ALAMO」という1時間の映画を見た。1836年3月のアラモ砦陥落の際のテキサス義勇軍とメキシコ軍の戦闘の様子、そして13日間の戦闘期間のエピソード等がコンパクトにまとめられていて、アラモでの戦闘の経緯、結果、そしてそれが後年にもたらした影響と歴史的評価を理解するには丁度良いアトラクションだと思う。IMAXシアターに行ったついでに、夕食も「リバーセンター・モール」で済ませてしまおうと考え、「Steers & Beers」というステーキハウス&バーに入った。ローカルビールは何があるのかと聞いてみたら、「バドワイザー」だの「ミラー」だの、国産のマスプロビールばかりで、「ローン・スター」も「シャイナー」もなかった。メニューをよく見ると、なんとローカルビールの中にコロラド・ビールである「ファット・タイヤ」があった。なんと、アリゾナだけではなく、ここテキサスでも「ファット・タイヤ」が登場するのである。
⇒サンアントニオIMAXシアターのウェブサイトはこちらから!
“This popular classic with a loyal
following continues to reward fans with a constrained bitter aroma and a warm,
nutty-malt flavor that the brewers call biscuit-like. A malty sweetness fills the mouth along
with a companionable bittersweet character that’s perfectly pitched. One of the best things about this always
refreshing amber ale is its consistency from bottle to bottle. Judges at the 2000 and 2001 Great
American Beer Festivals have noticed this, too, naming New Belguim Mid-Size
Brewing Company of the Year at these festivals. Co-owner and brewer Jeff Lebesch was
named Mid-Size Brewing Company Brewmaster of the Year at the same festivals.”
(365 Bottles of Beer for the Year 2003)
アリゾナ旅行以来約2ヶ月振りでまた飲んでみたけれど、う〜ん、さすがに「ファット・タイヤ」だ。美味しいエールであると改めて感動した次第である。
「シャイナー」の醸造元スポッツェル社見学
サンアントニオ滞在2日目、オースティンの上野さんご夫妻と遅めの昼食を食べる約束をし、それまで時間があったので、サンアントニオから東南東に約80マイルのところにあるシャイナーという町に立ち寄ることにした。この町にはアメリカで最も大量に生産されているボック・ビールとして有名な「シャイナー」を生産している「スポッツェル醸造会社」がある。ダウンタウンのアラモ砦と郊外のミッション・ツアー以外のアトラクションがないサンアントニオにおいては、車で1時間30分かかるこの醸造所も1つの観光スポットになっている。
住所: 603 East Brewery St., Shiner, TX 77984
電話: 361-594-3383
“Bohemian and Bavarian settlers founded
this brewery, which in the early 1990s restored its original name. It is in the tiny town of Shiner, about
70 miles south of
スポッツェル醸造会社は、シャイナー周辺に入植したチェコやドイツの移民によって1909年に設立された。これら移民の祖国で味わったビールの風味を再現すべく、創業者一族は醸造責任者としてドイツ・バイエルン地方で醸造責任者を務めた経歴を持つコスモス・スポッツェルを雇った。コスモスのレシピは約1世紀が経過した今も忠実に再現されている。ただ、このレシピは門外不出で、観光ツアーの工場見学の際は、携帯電話やカメラの使用を禁じられている。
さすがに、スポッツェルは観光用パンフレットを準備しているくらいだから、観光客の扱いに慣れている。ツアーは1日2回で、工場見学の後、「ホスピタリティ・ルーム」という場所に案内されて、テイスティングをすることができるのだ。観光客は最初のタップで1杯飲んだ後、コルク製のコインを3枚渡され、合計4杯までは無料で飲むことができる。テイスティングできるビールは5種類―――「ボック(ダーク・ラガー)」「ブロンド(ゴールデン・ラガー)」「へーフェヴァイツェン」「サマー・ストック(コルシュ)」「ウィンター・エール(ドゥンケルヴァイツェン)」だ。10月のビール祭り(オクトーバーフェスト)の際には、新しく「シャイナー・ライト」を発表するらしい。ボクは、後の運転の心配もあったので、「へーフェヴァイツェン」と「サマー・ストック」だけで済ませた。「ホスピタリティ・ルーム」には、シャツや帽子、ステッカー、グラス等のギフト品の展示がされていて、テイスティングしながらお土産何にしようかと考え、そして実際のショッピングは別棟にあるギフトショップに移動して行なうということになる。ギフトショップに行って驚いたのは、「シャイナー」ブランドのグッズは、お決まりの衣料品やグラス類のみならず、マウンテン・バイクやキャプテン・チェア、クーラー・ボックス、バイク・ジャージ等もあるということだ。ギフトショップとしては、今まで見た中でいちばん面白かった。
同じ工場見学に参加したグループの中には、アイオワ州から車を24時間とばしてはるばるシャイナーのビール工場見学を目的に来たという人もいた。現在、シャイナーは全米50州のうち、27州でしか販売されていない。一部の州の住民にとっては、依然としてシャイナーは幻のビールなのだ。でも、フル稼働している生産ラインで流れている小瓶の多さを見ると、シャイナーはニューヨーク州クーパーズタウン訪問時に見学したオメガングよりもはるかに大量生産されていて、メジャーなビールであると実感できる。特にここテキサスでは、バーに入るとどこでも必ず置いてあるテキサス・ビールとしては、「ローン・スター」と双璧を成す。
(2003年9月28日)