パパが飲んだビールシリーズ52
醸造:メリーランド州ボルチモア
アクセス:
最初は「トレーダー・ジョーズ」で発見。ソフトリカーの量販店「トータル・ワイン」でのみ入手可能
寸評:
The Raven
比較的新しいブランドであるため、ハードコピーによる第三者評価がどこにも載っていない。次のウェブサイトは相当詳しいコメントを載せているので参考にされるとよい。⇒Beer Doctor
ひとこと:
ボルチモアがワタリガラス(Raven)で有名だということは、恥ずかしながらボルチモアにNFLのチームが誘致されるまで知らなかった。1996年、クリーブランド・ブラウンズのボルチモア移転が承認され、チーム名が「レイベンズ」に変更された時、意味はよく知らなかったが、何となくオーストリアやドイツあたりの狂気を含んだ芸術家(そりゃベートーベンだろ!)のような響きがあった。このチーム、ぼくが仕事でワシントンに赴任して来た年のスーパーボウルに優勝し、とうとうNFLのチャンピオンにまで上りつめてしまった。
ぼくが「ザ・レイベン」を最初に見かけたのは、廉価スーパー「トレーダー・ジョーズ」だった。しかも、王冠コレクションを始めてから1年近くが経過してから、「トレーダー・ジョーズ」の店頭に初めて登場した。このビール自体は1998年からボルチモアで生産開始されていて、かなり新しい地ビールである。ラベルはワタリガラスのイラストなのに、王冠は赤地にアメリカの有名な作家であるエドガー・アラン・ポーの顔写真が載っている。アメリカ広しといえども、王冠に顔写真を載せているビールは「ザ・レイベン」しかない。なぜポーなのかというと、ポーは生涯の何度かをボルチモアのカムデン地区で過ごし、そこから数々の小説を発表しているからだ。推理小説の元祖として、ぼくは「モルグ街の殺人事件」「マリー・ロジェの秘密」「盗まれた手紙」という3大古典に加え、「黄金虫」と「黒猫」「赤き死の仮面」を小学校か中学校の頃に読んだことがある。また、大学時代の英文学の授業で、「アッシャー家の崩壊」のビデオ&テープが教材として使用された。アメリカの作家としては、かなり読んでいる方かもしれない。そして、詩人でもある彼のボルチモア時代の代表作品が、「ワタリガラス(ザ・レイベン)」なのである。
常々「トレーダー・ジョーズ」の仕入れには外れが少ないことを指摘しているが、このビールも、最初に飲んだ時は、悪くない味だと思った。聞くところによると、「ザ・レイベン」は、ボルチモアで生産開始される以前から、ドイツでは生産されていて、ボンのアメリカ大使館では、1997年のアメリカ独立記念式典から提供するビールを「ザ・レイベン」に切り替えていたらしい。(それ以前は「サム・アダムズ」だった。)どうもメリーランド州のビールは、苦味がきつくて味も濃くて苦手だという先入観があったのだが、「ザ・レイベン」は比較的薄めで飲みやすい。
でも、このコメントを書くためにもう一度1本飲んでみたところ、ドロっとした舌触りがちょっと気になった。ビールの味はその時の体調とか、季節とか、その日何本目のビールだったかとか、いろいろな要素によって影響を受けるため、初めて飲んだ時と今回飲んだ時の印象の違いは、少し気になる。参考までに、二度目の試飲は、その前にテキサスの「ローン・スター」を1本空けていたという点を割り引く必要はあると思う。当然、「ローン・スター」の方がもっと薄いので、「ローン・スター」の後にいかなる地ビールを飲もうと、メリーランド・ビールはどれも苦味を感じるだろう。ただ、あのドロっとした舌触りは一体何なんだろうか。ラベルがカラスのイラストだけに、変なものを飲まされているような錯覚にも陥った。でも、その一瞬の舌触りが過ぎると、ほのかな甘さが舌の上に残るのである。
雑食性の強いカラスの肉は、不味くて食べられないと聞く。「ザ・レイベン」も、ぼくはカラスのイラストで少しイメージを悪くしているのではないかと懸念するところがある。おまけに、かなり暗い作品が多いポーの顔写真だ。自信を持って客に薦められるビールというには、ビジュアル的に非常に損をしているのではないかと思う。
(2003年3月9日)
⇒ご参考までに、エドガー・アラン・ポーの詩「ザ・レイベン」はここから閲覧可能です。