COLUMN

ビール業界もグローバリゼーション
インターブリュー、バドを抜く

2004年3月4日付日本経済新聞に、次のような記事が掲載されていた。

インターブリューってどんな会社なんだろうか?
そこで、インターネットインターブリューのホームページを覗いてみた。
ほぼバドワイザーブランドの力だけでマーケットを席捲したアンハイザー・ブッシュ社を生産量で抜いて世界一になったのなら相当に有名なブランドを持っているのかなと思ったのだが、どちらかというとそこそこメジャーなブランドをいくつも並べて総合生産量で稼いだという印象だ。

インターブリューの保有するブランドの幾つかを紹介しよう。

ボクが「パパの趣味の世界―ビール・ワイン編」でご紹介したものばかりを挙げてみたが、実際には発音困難なベルギーブランドや、中・東欧のブランドがかなり多くある。そこにブラジル最大手のAmBevが加わるわけだ。コラム「カイピリーニャで今夜もヘベレケ」で紹介したブラジルビールの殆どがAmBev社の生産であることを考えれば、インターブリューはブラジルを制覇したと言ってもよい。

インターブリュー社が傘下に収めたベルギー国内のブランドは、比較的買収時期が古いように思う。ベル・ビュー等は10年ほど前らしい。ベルギー国内での買収行為にはそれなりに賛否両論はあるらしい。元々小麦ビール醸造で有名だったヒューガルデンは、インターブリューの強力なマーケティング力があればこそ世界市場でも小麦ビールのトップブランドとしてのイメージを確立することができた。修道院ビール(Abbey Beer)のブランドであるレフもそうである。しかし、ベルギー国内的には、元々非常に数の多くてそれぞれ特徴のあった国内のビール醸造所を整理統合でどんどん潰した張本人としてのよろしくない評判もあるらしい。

インターブリュー社のホームページを読むと、同社のブランド政策の目的は、「ある国内ブランドをそれぞれの市場におけるラガーの主力ブランドに育て上げること、この主力国内ブランドを最低でも当社のブランドポートフォリオから1ブランドを投入して補完すること、そして「ステラ・アルトワ」ブランドを国際ブランドとして確立すること」だと書かれている。ボクはステラ・アルトワは飲んだことがないが、このビールはおそらくベルギービールには似つかわしくないラガーなのだろう。また、大量生産に向いたラガーでないと、世界市場を席捲することは難しいという見方もできる。こうした政策を基準にすれば、インターブリュー社がドイツ、カナダ、メキシコ、韓国、アメリカでてこ入れしているブランドは合点がいく。

しかし、国外ブランドの買収は比較的最近のことらしい。英国のバース買収は2000年のことらしい。英国のペールエールとしては最初に名前が挙がるような「バース」を買収することで、英国政府とベルギー政府の間で独占禁止法抵触の有無を巡って対立が起きているそうだ。ラバットやローリング・ロック買収も比較的最近のことであると聞いた記憶がある。

幸い、こうしたブランド政策は成功を収めていて、「インターブリュー社の・・・」という形容は付かないとしても、この会社がかなりの成功を収めているというのはなんとなくわかるような気がする。ボクがワシントンでビールを飲んでいた頃にスーパーマーケットでよく見かけたビールが多く、特に外国ビールの陳列棚に置かれていたものについてはおそらく棚のスペースの半分以上はインターブリュー社のブランドで占められていたように思う。さすがにアメリカンビールであればバドワイザーやミラー、クアーズには及ばないが、サム・アダムスの次くらいには位置するほどの地位をローリング・ロックで占めている。これはワシントンがローリング・ロック社の地元であるペンシルベニアから近いからだとずっとボクは思っていたが、ローリング・ロックは米国内のどこに行ってもよく見かけるビールだったのは、そういうマーケティングが行なわれていたからだろうと、今となってみれば思う。

こうして、ボクたちはインターブリュー社の掌の上で踊るが如く、焼肉食べに行けば「やっぱ韓国料理にゃOBだな」とか「高温乾燥地じゃやっぱりメキシカンビールだ」とかほざいていたわけだ。どこへ行ってもバドとインターブリューといった状態で、確かにボクはインターブリューのグローバル市場における積極的なマーケティング活動のお陰でアメリカでは随分といろいろな外国産ビールを飲ませてもらった。

でも、お膝元のベルギー国内で、元々国内の小さなコミュニティをターゲットに独自のビールを醸造していた田舎の町ビール工場を、ラガー普及でどんどん閉鎖に追い込んでいるという話を聞くにつけ、本当にグローバリゼーション一辺倒でいいのかなと不安になったりする。アメリカにいていろいろなビールが飲める分には問題なくても、もし自分がベルギーの片田舎で細々と暮らしているような状況を想定してみたら、地元の特徴がどんどん消されてどこに行っても金太郎飴のような同じブランドのビールが出てくる状況はちょっと悲しい。

(2004年3月8日)