ブラジル・酔いどれ滞在記
サンパウロ、カイピリーニャで今夜もヘベレケ
《2003年1月14日、サンパウロにて毛利良一先生撮影》
2003年1月、日本福祉大学通信制大学院の海外スクーリングで、ブラジル・サンパウロに10日近く滞在する機会を得た。真冬のワシントンから飛行機に乗ること9時間、着いたところは気温30℃の真夏の世界だった。夏といえばビールが美味しい季節、しかもサンパウロではリベルダージ地区にあるニッケイ・パレス・ホテルに腰を落ち着け、このホテルを拠点として日帰りでサンパウロ郊外のインダイアトゥーバやサント・アンドレ、サントスに出かけ、後半はコンソラソン地区にあるサンパウロ大学のサテライト・キャンパスで講義を聞いた。そうして、夜になるとホテル周辺の日系人経営のレストランに繰り出し、世界各地から参加した受講生の方々、日本から来られた毛利良一教授、大学事務室の大口さんらと語り合ったものだ。そして迎えたサンパウロ最後の夜は、サンパウロ大学のフィリップ・グン教授のご自宅マンションに招かれ、ホームパーティーで飲みまくった。とても楽しいサンパウロ・スクーリングとなったが、8夜連続で飲んだお陰で、オジサンは肝機能が低下、最終日は二日酔いで、市内観光で歩くだけでは酔いが抜けず、ホテル地下のサウナのお世話になってなんとか酔いを抜いた。零下のワシントンに帰って来た日は、体がだるくて動き回る気持ちになれなかった。家族を家に残して単身でのブラジル行きだったとはいえ、オジサンとしてははめを外し過ぎた。
とはいえ、久々の南半球、しかもノリの良いラテンの国だ。飲みまくり、食べまくり、そして酔いまくった。酒は何でも美味しかった。極めるつもりで飲みまくった。わずか10日足らずの滞在期間だったが、毎晩飲んでればかなりの銘柄をカバーすることになる。浩司パパのアルコール探求の旅・ブラジル編をご紹介しよう。なお、サンパウロ観光ガイドとしては、ホテルなどで”MAGAZINE:
Turismo & Hotelaria”を入手すると良い。
1. ビール
Brahma Pilsener /
Brahma Chopp
サンパウロで最もお世話になったビールかもしれない。ブラジルに渡航する前に唯一知っていたブラジルビールであり、ニッケイ・パレスホテルの客室のミニバーに必ず置いてあるビールである。リオデジャネイロ産らしいが、サンパウロでもそこら中のバーやレストランで見かけた。味は少しユニークで、少し甘味を感じた。「ブラーマ」は1種類しかないと思っていたが、よく調べてみると2種類ある。殆どデザインを見てもわからないし、味もさほど違わないような気がする。’The Beer Lover’s Rating Guide”では、ピルゼンが3.8、チョップ・ピルゼンが3.7である。なかなかの高評価だ。
“Lightly perfumed,
with sweet aftertaste; good carbonation; distant hint of cloves; thin but
nicely configured and visible Brussels lace; finishes with a coffee taste on
the side of the mouth. Compatible
with Southwestern or Mexican food.” (The Beer Lover’s Rating Guide)
サンパウロの地ビールであり、そのペンギンのイラストの入ったラベルはサンパウロで頻繁に見かけた。味の方は自分が飲んだブラジルビールの中で最も薄い気がした。「アンタルクティカ」は日本で言えば東京コカコーラボトラーズのようなメーカーらしく、ノンアルコールの炭酸飲料もかなり多く生産している。滞在中は日中かなりお世話になった「ガラナ」も、コカコーラに対抗する地元メーカーとして、「アンタルクティカ」が販売されている。上記ビールガイドの評価は2.7とやや低め。
“Light,
light, light; faint hint of old-fashioned ballpark beer, which really is
nothing more (quite literally) than a canful of adjuncts --- or cereals, as the
label points out in Portuguese; something of a head, perhaps due more to
travails of travel and the wonders of brewing chemistry than to anything
intrinsic to the beer; slightly sour at the back of the tongue; wispy mustiness
lazily reaches the nose; quite weak texturally; cheaply made and
cheaply-tasting.” (The Beer Lover’s Rating Guide)
僕は、最後までこのビールをサンパウロ滞在中に口にすることができず、缶ビールを1本買って、結局飲んだのはワシントンに戻ってからとなってしまった。薄くてあまり酔えないビールだという印象がある。真夏の夕暮れ時に一杯ひっかけて帰るのには丁度適当なビールだと思うが、味が薄くてなかなか酔えないという点では、アサヒのスーパードライとよく似ているかもしれない。上記ビールガイドの評価はなんと0.8と極端に低い。
これも、「カイザー」同様の味の薄さで、何本飲んでもまったく酔えない感じがする。これも1缶買ってきて結局飲んだのがワシントンに戻ってからになってしまったのだが、あまり印象に残らないビールだった。スーパーボウルを観戦しながら飲んだのがいけなかったかもしれない。
僕が飲んだ中で最も美味しいと思ったビールが「ボヘミア」である。リベルダージ地区の日系人経営のレストランでは、銘柄指定をせずに「セルベージャ(ビール)!」と注文すると、「ボヘミア」が出される可能性が最も高い。確かに、日本料理の微妙な味加減や薄味には、でしゃばり過ぎず、かといってそれなりに酔えるビールが丁度良い。ワシントンの寿司屋でキリンの「一番搾り」を飲むように、サンパウロの日本レストランでは「ボヘミア」なのだ。因みに、リベルダージ地区を拠点としている日系人のタクシー運転手である馬渡さんに、この界隈で最も美味しい日本レストランはどこかと尋ねたところ、返ってきた答えが「喜怒哀楽」というお店だった。同地区にあるブラジル日系移民文化史料館のすぐ近くで、外から見ると汚くて小さいお店なのだが、ニッケイ・パレスホテルの宿泊客がかなり頻繁に使っているようで、毎晩繁盛している様子だった。内装は東京の定食屋を少し広めにしたくらいなのだが、ワシントンの日本レストランよりも味がしっかりした一品料理がいっぱい出てきた。このレストラン「喜怒哀楽」でビールといったら「ボヘミア」だ。
“Fruity, a
touch spunky, and almost fizzles; nicely configured Brussels lace remains
throughout; milky haze obscures pale-blond body; obviously old and punchless,
but some malt flavor remains; textureless and unaromatic.” (The Beer Lover’s
Rating Guide)
「スコール」も可哀想なビールである。上記の評価コメントでは、ありとあらゆる表現を使ってこのビールを揶揄している。点数としては1.0なので、「カイザー」よりはまともだと言えるが、決して褒められるような点じゃない。このような第三者評価が主観に左右されやすい点を差し引いたとしても、僕自身もこのビールを形容するのに、適当な言葉が見つからない。申し訳ないけれど、「カイザー」と「ババリア」「スコール」は、利きビールのコンテストをやっても正解を当てる自信が全くない。
その他、サンパウロ周辺では、XinguやCrystalといったブランドのビールの看板を見かけたが、残念ながら飲む機会がなかった。こちらのビアパブは、お店によって扱いのビール銘柄が決まっているようで、A店では「ブラーマ」、B店では「カイザー」といった具合に分かれていた。リベルダージ周辺のレストランは、「ブラーマ」や「ボヘミア」が多かったので、ここで紹介した幾つかのビールは、その味を調べるのにわざわざスーパーで缶ビールを買う必要があった。
2. ピンガ
そしてブラジルの地酒「ピンガ」である。サトウキビを蒸留して作るお酒で、アルコール分が非常に高い。サトウキビから作るというと、日本でいえば沖縄の「泡盛」と似ている。また、昔僕が住んでいたネパールでよく飲んでいた地酒「ロキシー」とも味がよく似ている。「ロキシー」は粟稗の雑穀から作られるが、簡単に酔えるという点、しこたま酔っ払っても翌日に残らないところは、この類の蒸留酒に共通している。カトマンズ在住時代、お客様をもてなす場合には、「ホテル・ヤク&イエティ」という五つ星ホテルの近くにあった「ボー・チェン」というネワール料理のお店に好んで案内した。ここの売りはロキシーで、杯に入れたロキシーにマッチで火を点けるサービスをよくやってくれた。薄暗いレストランの中で、青白い炎が幻想的だった。多分、ピンガも同じような燃え方をするのだろう。
さて、僕がピンガを飲むのは、今回のサンパウロ滞在が初めてではない。僕はJICAの経理部時代に、旧海外移住事業団出身で南米駐在経験のあるシニアの職員の方から、ピンガをご馳走になったことが何度かある。1990年代前半のJICAといったら、まだ国際援助協調だの援助の効率化だのに神経を尖らせることも少なかった時期で、夕方5時半を過ぎて仕事を上がった管理職が、近くの打ち合わせスペースで「酒盛り」を始めることがよくあった。「お〜い、山田君もどう?」と誘われ、何度か酒盛りの輪に加えていただいたことがある。海外移住事業の予算管理を担当していた僕は、当時は南米赴任に漠然とした憧れを持っていて、先輩方のお話を聞きながら、ブラジル行ってみたいなと夢見たものだった。
あれから10年近くが経過して、ようやくブラジルを訪れる機会を得た。レストランに入り、取り合えずビールを注文したものの、途中からピンガに替わり、何倍か飲んでは毛利先生に暴言を吐くのがお決まりのパターンになってしまった。他にも飲む仲間がいれば、面倒だからボトルで注文しようということになり、最後に「喜怒哀楽」を訪れた時には、とうとうボトル1本空けて、それでも物足りずに「カイピリーニャ」を追加で1、2杯注文した。
「カイピリーニャ」は、ライムをスライスしてグラスに沢山ぶち込み、粉砂糖と氷を入れて最後はピンガを加えるというアバウトな飲み物で、ピンガの味が強ければ砂糖やライムを加えてお好みの味に調整する。砂糖を大量に加えて甘い飲み物に仕立てたからといって、ピンガはピンガで相当に強いお酒であることには変わりはない。美味しいからといって調子に乗ってガンガン飲むと、いつの間にか酔いが回って歩けなくなることもしばしばだ。
「カイピリーニャ」も、家庭によっては振る舞い方が違うらしい。サンパウロ大学のフィリップ・グン教授のご自宅マンションでのホームパーティーにお招きいただいた時は、スライスしたライムをグラスにそのまま入れるのではなく、ライムの果汁だけを搾ってグラスに入れるやり方を取られていた。こうすれば砂糖が溶けきらずに底に溜まることが少ないのだという。そういう「こだわり」がどこの家にもあるのだろうか。まるでネパールの民家でご馳走になる「ダル・バート(豆スープと御飯)」のような話だ。僕は、グン先生のお宅で飲んだ「カイピリーニャ」3杯のお陰で、サンパウロ最終日を二日酔いで過ごす結果になった。ピンガ自体はあまり翌日に酔いが残らない筈なのだが、きっと体が疲れていたのだろう。
「カイピリーニャ」は、サンパウロ空港の免税品店で、6人分のピンガと粉砂糖をパックにした「カイピリーニャ・ミックス」という名前で販売されている。ブラジル土産としてはなかなか面白いかもしれないが、土産として配る相手によっては飲んで下さらない可能性もあるので購入は慎重に検討した方がよい。
⇒日本の雑誌「ダンチュー」のカイピリーニャ紹介ページはこちら
⇒カイピリーニャの代表的ブランド「カシャーサ51」のウェブサイトはこちら
最後に、サンパウロでアルコール探求の毎日を送るに当たって、お付き合いいただいた皆様に心からお礼申し上げます。実を言えば、ブラジルのお酒以外に、スクーリングの受講生と毛利先生が持ち寄った、チリワイン、アルゼンチンワイン、バーボンウィスキー、ジョニ黒等も賞味することができて、なかなか楽しい滞在になりました。
(2002年1月28日)