アメリカ鉄道巡りO

ウィルミントン西部鉄道
Wilmington & Western Railroad

 

 

 

 


 

場所:デラウェア州ウィルミントン グリーンバンク駅

2201 Newport Gap Pike (Rte. 41), Wilmington, Delaware 19808

 

アクセス:ワシントンからは車で約2時間。I‐95をニューヨーク方面に向かい、メリーランド州からデラウェア州に入った後、Exit‐5でハイウェイを下りて約5分。

 

初めて紹介するデラウェア州の鉄道である。2年近く前に初めてニューヨークに出かけた際、デラウェア州に蒸気機関車が客車を牽く観光鉄道があるのは知っていたが、なかなか訪れる機会がなくて今に至ってしまった。ニューヨークは家族連れで行くには大都会過ぎてボクたちにはなかなか合わない。たまたまヤンキースに松井君が入団したので、今年は応援に行く機会ができた。それでも大都会は子連れには向かなくて、あまり長期の滞在はできない。一泊して、ニューヨークからの帰路、丁度2時間少々でデラウェア州に入る。休憩がてら子連れで訪れるのに適当なロケーションだ。

 

我が家から車で行ける観光鉄道としては、これまでにメリーランド州のウォーカーズビル南部鉄道やペンシルベニア州のストラスバーグ鉄道を紹介してきた。ストラスバーグ鉄道には何度も行ったことがある。ウォーカーズビルは牽引するのがディーゼル機関車なので、子供受けがイマイチだ。これは例外としても、車で2時間半〜3時間はかかるストラスバーグよりも、ウィルミントン西部鉄道はもっと近い。しかも、牽引する蒸気機関車はストラスバーグに比べてやや大型だし、観光鉄道の拠点となっているグリーンバンク駅の待合室は、ストラスバーグよりもずっときれいに整備されている。トイレは清掃が行き届き、建物内にはスナックを食べられるカフェテリアもある。グリーンバンク駅の敷地内もピクニックが出きるテーブルが幾つも置いてあり、想像していた以上にインフラが整っている。

 

観光鉄道としてのコースは、「赤粘土の小川(レッド・クレイ・クリーク)」と呼ばれる渓谷を辿る片道10マイル、往復約2時間のコースで、途中レール敷設のために山を切り通した岩場を3箇所ほど抜けるし、ウィルミントン郊外の特徴的な邸宅の幾つかを眺めることができる。そして、ボクたちが訪れた時には、なんと川辺で水を飲んでいた鹿の親子にまで遭遇した。見晴らしという点では台地を走るストラスバーグ鉄道ほどではないが、渓谷をぬって走るこのウィルミントン西部鉄道のルートは、おそらく紅葉の10月から11月頃に訪れるととても見ごたえがある観光コースになるに違いない。ボクたちは残りの任期の関係で、この秋にウィルミントンを再訪することは非常に難しいと思う。とても残念だ。

 

いつも蒸気機関車が牽引するわけではないらしい。蒸気機関車がお目当ての場合は、事前にウェブサイトで蒸気機関車が牽引する日をチェックしておくことが大切だ。特に、暑くて客車の窓を開けて走らなければならない7、8月は蒸気機関車を見られる日が殆どないから注意が必要だ。逆に、紅葉の季節になると毎週末蒸気機関車が活躍している。

 

ボクたちが訪れた5月中旬のその日は、「南北戦争小競り合いの週末(Civil War Skirmish Weekend)」というイベント開催日で、客車に南軍、北軍の兵士のコスチュームでライフル銃を持ったボランティアが乗り込み、NVTという会社の工場南側の野原で、南北に分かれた銃撃戦を展開し、それを乗客が客車の窓から眺めるという粋な企画があった。北軍側はなんと大砲1基を準備し、小競り合いの間に数発ぶっ放してくれた。寒冷前線通過後で非常に寒かったけれども、見る方としてはなかなか楽しかった。この他にも、観光列車の本格シーズンではない4月にも「イースター・バニー特急(Easter Bunny Express)」、11月末から12月にかけた毎週末にはサンタクロースが乗り込む「サンタクロース特急(Santa Claus Express)」なるイベントが開催される。

 

元々、この鉄道は、レッド・クレイ・クリーク沿いの製粉所からウィルミントン港に物資を運ぶことを目的として1867年に会社が設立され、1872年から運行を開始した。当時は貨物と旅客の両用で、ペンシルベニア州ランデンバーグからウィルミントンまでの約20マイルを運行していた。1883年には、ボルチモア&オハイオ鉄道(B&O)の子会社であるボルチモア&フィラデルフィア鉄道が路線を買収した。現存する路線とは別に、B&Oはこの買収により、ワシントンDCからニューヨークまでの旅客・貨物兼用路線を確保し、当時全盛だったフィラデルフィア鉄道に対抗できるようになった。だが、20世紀半ばになると鉄道の輸送量、旅客量はともに減少に転じ、ウィルミントン〜ペンシルベニア路線は、先ずペンシルベニア州側で縮小され、1950年代末までにデラウェア州ホッケシンまでに運行距離が半減された。さらに、1966年にはHistoric Red Clay Valley, IncというNPOがB&Oから路線のリースを受け、グリーンバンク駅からマウント・キューバ駅までの区間の観光目的の運行を開始した。この路線は1982年にNPOによって全面買収され、沿線の歴史文化、産業や環境保全学習のための観光路線として営業を続けている。

 

このコラムを読まれた方、是非紅葉の秋にこの鉄道にトライしてみて下さい。そして、美しい紅葉の中を走る蒸気機関車の写真を、是非ボクたちにも送って下さい。

 

 

 

ウィルミントン西部鉄道のウェブサイトはこちら

 

(2003年5月18日)