インクラインド・プレイン紹介A

デュケイン・インクライン
Duquesne Incline

 

 

 

 


 

場所:ペンシルベニア州ピッツバーグ

アクセス:ワシントンからは車で約4時間

 

皆さんは、1983年公開の「フラッシュダンス」という映画はご存知だろうか。1983年頃といえば、やたらとダンス映画が流行った時期で、その火付け役となったのが「フラッシュダンス」だった。主人公のアレックス(ジェニファー・ビールス)は、昼間は町の製鉄所で働き、夜はナイトバーでダンスを披露し、ショービジネスでのデビューを夢見る。彼女が踊るバーにたまたま来た製鉄所の経営者の青年と恋に落ち、彼の厚意でオーディションのチャンスを得るが、それが彼の手配によるものだとわかってそれに反発し、いったんは受験を拒否する。しかし、青年の説得に応じ、最後にはオーディションを受験、そして見事合格を果たすというシンデレラ・ストーリーになっている。

 

さて、なんで「フラッシュダンス」を取り上げたかというと、この映画の舞台はピッツバーグであるからだ。かつては鉄鋼の町として栄えたピッツバーグは、今は文教都市として再開発が進んでおり、往時の面影は今はない。アレゲニー、モノンガヘラの両河川が合流してオハイオ川に名前を変えるポイントには、NFLピッツバーグ・スティーラーズの本拠地ハインツ・フィールドや、大リーグピッツバーグ・パイレーツの本拠地PNCスタジアムが立ち並ぶ。モノンガヘラからオハイオ川に至る北岸のリバーフロントは、土地が開けていて開発が進んでいるが、南岸は切り立った崖であり、崖の上に住宅街が広がっている。

 

振り返って「フラッシュダンス」だが、アレックスを実の娘のように可愛がっていた高齢の老婆が登場したのは覚えておいでだろうか。アレックスがオーディション受験を決意する大きなきっかけとなったのはこの老婆の死なのだが、この老婆の自宅を久し振りに訪ねたアレックスがその死を知る直前のシーンで、彼女は登山鉄道のような乗り物に自転車ごと乗り込んでいた。それが今回紹介するデュケイン・インクラインなのだ。右の写真とまさに同じシーンが映画の中でも登場する、ビデオでもう一度ご確認下さい。

 

ボクがこれまで取り上げてきた多くの鉄道は観光用鉄道として保存されている。インクラインド鉄道も、以前紹介したモンチ・セーハや箱根登山鉄道のように観光目的で設置されたものが多い(モンチ・セーハはどちらかというと礼拝用と言った方がいいかもしれないが)。しかし、今回紹介するデュケイン・インクラインは、れっきとした現役の旅客鉄道で、ピッツバーグの中心街に向かう人々の通勤の足として活躍しているのである。坂の上は、「フラッシュダンス」でも登場する住宅街、坂の下は水辺で、ここからはボートか或いはバスに乗り継ぐことになるのだろう。従って、ピッツバーグにあるインクラインドはここだけじゃなく、デュケインから2kmほど東に行ったところにモノンガヘラ・インクラインがある。

 

崖の上の駅から見るピッツバーグの町並みはとても美しい。ピッツバーグはあまり観光スポットがないと言われているが、ここはお薦めである。夜訪れて夜景を楽しむのもいいかもしれない。駅の横にはレストランもあって、夜景をながめながらディナーを楽しむこともできる。崖の下にははっきり言って何もない。この風景を楽しみたい観光客は、先ず崖の下に車を駐車して、インクラインド鉄道に乗って崖の上の駅に向かうのである。現在、この崖の下の駅に向かうカーソン通りは、ピッツバーグのダウンタウンからモノンガヘラ川を渡るI-279号線フォート・ピット橋が閉鎖されているために行くことができない。ボクたちは仕方なくその1本上流のリバティ橋から南岸に渡ったが、そこからは坂を登るしかなく、結局崖の上の駅の前に着いてしまった。

 

インクラインド鉄道に乗っている時間はとても短く、高さ100mほどしかないので3分もかからない。あっという間だが、学生時代にはまった映画の1シーンに登場した乗り物にこうして20年経って乗り込む感動はひとしおだ。もう一度「フラッシュダンス」を見たくなった。

 

デュケイン・インクラインの歴史を紹介したウェブサイトはこちら

ピッツバーグの旅客インクラインド鉄道の紹介ページはこちら

 

(2003年7月10日)